脳卒中ガイドライン2015[追補2019]から歩行障害に対する「装具」の引用文献part4
本記事では、前回の記事に引き続き、脳卒中ガイドライン2015[追補2019]の、「Ⅶ リハビリテーション 2-2 歩行障害に対するリハビリテーション」の、装具に関する記載について読んでみます。
まだ、part1・part2・part3をご覧になっていない方は、そちらもご覧ください。
本記事は、以下のような方向けです。
✅ 脳卒中ガイドライン2015を学びたい
✅ 脳卒中ガイドラインの本文だけを見ている
✅ 引用文献まで目を通す時間がなかったので、サクッと確認したい
まずは、脳卒中治療ガイドライン2015[追補2019]についてです。
目次
脳卒中治療ガイドライン2015[追補2019]
脳卒中治療ガイドライン2015がでたあとも、脳卒中の研究はたくさん報告されています。
それらを追加したのが、追補2019です。
脳卒中に関わる療法士であれば、一度は目にしたことがあるのではないでしょうか?
目にしたことがなくても、研修会や学会などで、参考にされているところを見たことがある方は少なくないと思います。
普段何気なく見ているガイドラインだからこそ、その中身をみることは大変重要です。
では、脳卒中治療ガイドライン2015[追補2019]の中で、2-2 歩行障害に対するリハビリテーションをみていきましょう。
2-2 歩行障害に対するリハビリテーション
今回は、2-2歩行障害に対するリハビリテーションの、装具に対する部分をみていきます。
推奨の欄には、以下のように記載されています。
2−2 歩行障害に対するリハビリテーション
日本脳卒中学会 脳卒中ガイドライン委員会:脳卒中治療ガイドライン2015[追補2019対応],2019.
2.脳卒中片麻痺で内反尖足がある患者に、歩行の改善のために短下肢装具を用いることが勧められる(グレードB)。
本文には、以下のように記載されています。
歩行困難な患者において歩行速度に有意な改善はないもののFunctional Ambulation Categoriesでみた歩行能力は改善し、患者の満足度も良好であった12)(レベル2)。
日本脳卒中学会 脳卒中ガイドライン委員会:脳卒中治療ガイドライン2015[追補2019対応],2019.
この12)を読んでみます。
12)は「Assistive Walking Devices in Nonambulant Patients Undergoing Rehabilitation After Stroke: The Effects on Functional Mobility, Walking Impairments, and Patients’ Opinion(脳卒中後リハビリテーションを受けている非救急患者における歩行補助装置の効果。機能的移動性、歩行障害、患者の意見に及ぼす影響)」のタイトルの研究で、無料でダウンロードすることができます。
それでは、具体的にみていきましょう。
脳卒中後リハビリテーションを受けている非救急患者における歩行補助装置の効果。機能的移動性、歩行障害、患者の意見に及ぼす影響
それでは早速、こちらを読んでみます。
まずは、PECO(+D)を用いて整理します。
PECO(+D)
P)脳卒中後、少なくとも2週間は自力歩行ができない入院中の脳卒中患者20名
E)杖、短下肢装具、スライダーシューズを使用する
C)何も使用しない
O)歩行機能(FAC)、歩行速度、歩幅、患者の意見
D)実験的研究
続いて、背景をみていきます。
背景
歩行の回復は、脳卒中患者とその治療者にとっての第一の目標であり、ほとんどの脳卒中患者は歩行能力を回復しています。
一方、片麻痺者の歩行は遅く、エネルギー効率が悪いです。
脳卒中患者の中には、屋外で自由に動ける人はほとんどおらず、約20%が一人で外に出ることができません。
脳卒中患者の2/3以上が杖を使用しており、20%以上が短下肢装具を使用しています。
歩行補助具の中でも、特に短下肢装具が脳卒中患者の歩行に有益な効果をもたらす可能性があるエビデンスが増えてきています。
しかし、エビデンスは慢性脳卒中患者と歩行障害の影響に焦点を当てています。
本研究では、脳卒中後にリハビリテーションを受けている非救急患者を対象に、歩行支援装置が歩行機能、歩行障害、患者の意見に及ぼす影響を検討します。
方法
参加者
イギリスのマンチェスターにある3つのNational Health Serviceから募集されました。
対象者の基準は以下の通りです。
- 脳卒中後少なくとも2週間は歩行不能であること
- 歩行回復のための入院リハビリテーションを受けていること
- 病棟での日常生活において、補助具がないと自立して動けない
- サポートが必要な場合もあるが、理学療法のセッション中にステップ練習や歩く練習ができる
- 身体的なサポートなしで5mの歩行が可能なこと(試験方法のための最低歩行距離)
- インフォームドコンセントができる
この基準を満たす20名が集められ、脱落者はいませんでした。
平均年齢は65.6±10.4歳、脳卒中発症からの平均期間は6.5±5.7週間でした。
右片麻痺は7人、左片麻痺は13人でした。
理学療法士の評価では、10人(50%)は補助器具なしでは歩行できず、8人(40%)は常時補助が必要で、2人(10%)は間欠的な補助が必要でした。
Functional Ambulation Categories (以下、FAC)の中央値は1(常時介助歩行レベル)でした。
研究デザインと手順
無作為化対照クロスオーバー試験を実施しました。
装置を用いない患者の歩行を対照条件とし、それぞれの装置を用いた歩行を介入条件としました。
試験された順序はランダム化され、割り付けは隠されていました。
リハビリテーションや自然回復の影響を否定するために、すべての検査は1回の検査で行われました。
歩行支援装置
使用された補助器具は、臨床現場で最も一般的に使用されているもので、歩行杖、短下肢装具、スライダーシューズでした。
短下肢装具は、英国の多くの病院で標準的な装具として使用されている既製品の短下肢装具(写真)であるOssur leaf spring ankle foot orthosis を使用しました。
スライダーシューズは、つま先と側面の周りが盛り上がり、踵まわりは伸縮性のあるストラップで固定されているものを使用しました。
評価・測定方法
機能的な歩行能力は、FACを用いて測定しました。
条件毎に、歩行速度と麻痺側の歩幅を測定しました。
歩行テストが終了したあと、参加者はアンケートに回答しました。
結論
装置毎のFACの改善
すべての装置で、装置なしと比較してFACは有意な改善をみとめました。
歩行速度や麻痺側歩幅の結果
歩行速度や麻痺側の歩幅は、装置なしと比べて、有意な改善はみられなかったです。
参加者は、装置を快適だと感じており、多くは装置の外観に不快感を感じていなかったです。
考察
脳卒中患者が装置を使いたくないと思っている印象は、治療者の勝手なイメージである可能性があります。
研究限界としては、装置を装着した上での練習期間をじゅうぶんにもうけることができなかったことが挙げられます。
読んだ上での考え
入院中の介助歩行の症例に対して、装置を使用することでのFACに即時効果がでることを調査しており、大変有意義な研究だと思います。
装置は、杖であっても、短下肢装具・スライダーシューズのいずれでも、装置なし歩行よりFACが改善しています。
単純に短下肢装具を使用するのではなく、歩行補助具の選択から理学療法士のスキルは求められてると考えることができます。
また、この研究で興味深い点は、アンケートをとっていることです。
アンケートの結果、歩行補助具の使用に不快感をもっていないことが分かります。
理学療法士は、いつの間にか歩行補助具を使いたくないのではないかという先入観を持ってしまっています。
この先入観で患者さんに聞くから、患者さんは「装具をはずして歩くこと」がいつの間にか目標になっているのかなと思いました。
担当患者さんが、早く自力で歩きたいのなら、装具ありなしの議論ではなく、いち早く自力歩行するための歩行補助具の使用を勧めることも、理学療法士の役割の一つかなと思いました。
まとめ
本記事では、ガイドラインの引用研究を読んでみました。
忙しい臨床の中で、参考にしていただき、何より原文を確認してもらえるととても嬉しいです。
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