【実際の抄録あり】初心者向け!採択される抄録の書き方
(本ページは2021年8月16日に更新されました。)
リハビリ専門職として、重要なテーマである「学会発表」。
学校の先生や、上司、同期から、「学会発表はした方が良い」と、言われたことがあるかと思います。
しかし、いくら「学会発表はした方が良い」と言われても、
「具体的に抄録はどうやって書くの?」 「採択されるには、コツはあるの」 |
という疑問がある方も多いのでは無いでしょうか?
私自身、新人セラピストの頃は「学会発表は重要!」「臨床と研究は同じくらい大切」といくら言われても、全くピンときませんでした。
っていうか臨床の方が絶対重要だと考えていました。
しかし、その後色々な研修会や学会に参加して、実際に学会発表を繰り返した今は、その意味が分かります。
というわけで、当時の自分と同じように
「具体的に抄録はどうやって書くの?」 「採択されるには、コツはあるの?」 |
と思ってる方に対して、はじめて抄録を作成する方でも分かるように、抄録の書き方について丁寧にご紹介します。
学会発表に加えて、査読や学会運営など、学会に色々な方向から携わった私だからこその採択される方法も合わせて解説いたします。
今まで「なんとなく、学会発表してたな〜」と思っていた方も、是非一度目を通して頂けると嬉しいです。
本ページでは、「症例報告」を中心とした「採択される」抄録の書き方と、実際に採択された私の抄録をご紹介したいと思います。

前提として
私は、学会発表のために抄録をまとめて、議論することに価値を感じています。
なぜなら、抄録をまとめるために臨床を振り返ったり、先行研究を調べるからです。
また、他の地域や病院で働いているセラピストと議論して、今までにない知識を得られることもすごく貴重なことです。
なので、本ページでは、「学会発表までの抄録の書き方」を解説します。
「論文にしないと残らない」 「論文じゃないと業績とならない」 |
って考えている方にとっては、本ページはあまりお役に立てないと思います。
一方、
「学会発表したことがないけど、してみたい」 「学会発表は難しそうだけど、どうなのかな?」 「学会発表したけど、質問がなくて寂しかった」 |
って思ってる方にとっては、お役に立てると思います。
「採択される」抄録への戦略
「採択される」抄録へ向けた戦略があります。
私流「採択される」ズボラ戦略です。
ポイントは、2つです。
・応募する学会の昨年の抄録からそのまま参考に(真似)できそうなものを探す |
応募する学会の昨年の抄録からそのまま参考に(真似)できそうなものを探す
これが「採択される」抄録において9割くらい大切です。
理由を説明するために、質問です。
採択を決めるのは、誰だと思いますか?
毎年変わる、学会長でしょうか?
半分正解で、半分不正解です。
学会長は、採択への最終的な判断をしています。
実は、採択は「査読者」が決めています。(といっても過言ではないです)
査読者が採点したものを、最終決定するのが学会長です。

そのため、査読者が合格点をつけているものを、わざわざ学会長がひっくり返すことはありません。(あるかもしれませんが)
では、この査読者は毎年変わるのでしょうか?
基本的には同じ(所属学会で査読者登録している)ことが多いです。
そのため、昨年採択されている抄録は、査読者の採点を通過しているので、採択しやすいということになります。
この傾向を踏まえると、昨年の抄録を参考に(真似)することで、採択に近づきます。
具体的な方法は、
①応募する学会の昨年の抄録からそのまま参考に(真似)できそうなものを探す。 |
これが見つかれば、アナタの抄録が「採択される」確率はぐーーーーっと上がります。
見つかったら、その抄録を自分にあてはめる
見つかれば、その抄録を自分の状況にあてはめてみます。
例えば、脳卒中片麻痺者のロボットを使用した歩行練習の有効性を検討していた抄録があったとして、
「年齢」「疾患名」「病日」「ロボットの種類」など、参考にする抄録と自分の状況で、変わる部分はありますよね?
一方、「評価項目」「測定方法」など、そのまま使用できる部分もあるはずです。
これを組み合わせることで、自分なりの抄録が完成します。
評価項目や測定方法は、昨年の学会で採択されているので、採択されやすい項目や方法となります。
「これってパクリではないの?」 |
と心配は無用です。

なぜなら、研究とは前の研究を参考に積み重ねられているからです。
積み重ねるときに、前の研究を参考にするのは当然のことです。
もちろん、変わる部分がなくて、全く同じものはダメですよ。
正々堂々と参考にする部分は参考にして、変える部分は変えてください。
注意点は、中途半端に自分色を出さないことです。
例えば、先行研究では、歩行速度を3回とっているから、今回は2回にしてみよう、みたいな。
この3回には理由があり、それによって採択されているのです。
なので、参考にするときにはそのあたりも含めて、そのまま参考にしてください。
書き方
続いて、細かい書き方を解説します。
まずは、学会のルールを確認しましょう。
学会のルールを確認
学会のルールでおさえておくべきは、5つです。
・文字数 |
です。「採択される」抄録の戦略で抄録を作っても、この5つが不十分だと落とされます。
それくらい大切です。
文字数
〇〇文字以内、と明記されています。
設定文字より少なすぎると、減点対象となる場合があります。
設定文字より多いと、不採択の可能性が高まります。
今は設定でオーバーは提出できないようになっているところが多いものの、注意しましょう。
じゃあどれくらい書けばよいの?
って思いますよね。
設定文字の9割程度は書くようにしましょう。
半角や句読点を何文字と数えるか、も文字数に左右されるので、チェックしておきましょう。
利益相反(COI:conflict of interest)
ほぼ全ての学会で、COIを開示する必要があります。
COIを簡単に言うと、利益のある関係によって、研究の正しさがなくなることです。
利益のある関係が問題ではなく、それを秘密にしていることが問題です。
COIは良いけど、COIを開示しないのは良くないよねってイメージです。
学会側でスライドや書き方を準備しているところも多いので、参考に作ってみてください。
日本理学療法士協会でも、分かりやすく提示してくれています。
倫理的配慮
文部科学省、厚生労働省、経済産業省から倫理指針が出されています。
倫理指針では、8つの基本方針が書いてあります。
① 社会的及び学術的意義を有する研究を実施すること。
文部科学省・厚生労働省・経済産業省:第1目的及び基本方針1第1章総則第1目的及び基本方針.人を対象とする生命科学・医学系研究に関する倫理指針ガイダンス
② 研究分野の特性に応じた科学的合理性を確保すること。
③ 研究により得られる利益及び研究対象者への負担その他の不利益を比較考量すること。
④ 独立した公正な立場にある倫理審査委員会の審査を受けること。
⑤ 研究対象者への事前の十分な説明を行うとともに、自由な意思に基づく同意を得ること。
⑥ 社会的に弱い立場にある者への特別な配慮をすること。
⑦ 研究に利用する個人情報等を適切に管理すること。
⑧ 研究の質及び透明性を確保すること。
ちょっと小難しいですが、大切なので時間あるときに確認してくださいね。
これを踏まえて、本ページで紹介する症例報告では、
・対象者への説明と同意(⑤) |
は、倫理的配慮の項目で必須です。
忘れないように記載しましょう。
大項目
学会によっては、大項目の指定があります。
例)「はじめに」「経過」「結果」「考察」に分けて記載してください。
みたいな感じです。
この項目通りに書くと、査読者が見やすいので、基本的には指定の項目にしておきましょう。
指定の項目であれば、発表時も参加者が理解しやすいです。
期日
近年、期日は延長されることが多いですが、基本的には当初の期日で提出しましょう。
延長期間に提出された抄録は、たとえ査読点数が高くても、優秀演題候補から除外してました。(運営に関わった学会では)
「私は優秀演題なんて、関係ないから、延長期間でもなんとか出せれば良いわ。」
って考えはもったいないです。
というのも、優秀な演題候補であれば、セレクション口述やピックアップ演題など、人が多く集まる機会で発表するチャンスがあるからです。
人が多く集まるので、たくさんの意見をもらうことができます。
そんなありがたい機会を逃さないためにも、期日は守りましょう。
もちろん、延長を含めた期日に遅れれば学会発表は絶対にできません。
症例報告の実例
それでは、実際に私が採択された抄録から、具体的にみていきましょう。
2020年の第18回日本神経理学療法学会学術大会の抄録です。
外側へ傾斜した短下肢装具に対して足パッドを挿入したことで歩行時の骨盤外側移動が減少した生活期脳出血例
實結樹,他:W-152.第18回日本神経理学療法学会学術大会,2020.
Key words / 装具軸, 足パッド, 歩行
【はじめに、目的】
短下肢装具は、脳卒中片麻痺者の歩行を安定させるために有効な手段である。
また、短下肢装具は三次元アライメントで捉える重要性について報告されている。
三次元のうち前額面上の装具軸は、装具を床の上に立てた時の装具中心線である。
中野は、この装具軸は前額面上で垂直に近い状態で作成されることが多いものの、歩行を考えれば、むしろ内側へ傾斜させるべきだと述べている。
今回、装具軸に外側傾斜をみとめた短下肢装具に対し、足パッドを用いて傾斜を内側へ修正することで、歩行時の骨盤外側移動の減少をみとめた症例を報告する。
【方法および症例報告】
症例は右脳出血によって重度左片麻痺を呈した60歳代の女性である。
発症後、回復期病院を経由して191病日目に自宅退院した後、60分週2回の訪問リハビリと、デイサービス1日(入浴)、週に1回の訪問マッサージを実施していた。
287病日時点で、Brunnstrom Recovery Stage は左上肢 II 手指 I 下肢 III、感覚は左上下肢ともに脱失~重度鈍麻であった。
歩行は、4点杖と金属支柱付き短下肢装具を用いて屋内接触介助レベルで、左立脚期の骨盤外側移動が大きく、 左立脚期にふらつきをみとめた。
骨盤の外側移動が大きいのは、装具軸が外側傾斜している影響だと考え、短下肢装具の足底面に足パッドを貼付して傾きを補正した。
方法は、同日中に足パッド貼付前後で、歩行中の骨盤の外側移動距離を計測した。
足パッドは厚さ6mm のものを用いた。装具の足底面に合わせて型取りを行った後、装具軸が肉眼で垂直に近い状態となるようにグラインダーにて削った。
足パッドの厚さは外側が6mm、 内側は1mm となった。
装具軸は、床と垂直な線と踵部中央と下腿半月中央を結んだ線のなす角度とした。
足パッド貼付前の装具軸は、外側を+として外側へ+5.9° 傾斜しており、足パッド貼付後は0°を超えて内側へ-0.8° 傾斜した。
歩行計測は ipad pro で後方から前額面上を撮影した。
撮影した動画から安定した1歩行周期を動画ファイルとしてパソコン内に取り込み、動画編集ソフト GOM player にてサンプリング周波数 30Hz で静止画像に変換した。
左立脚期を時間で正規化し、10% ずつにわけ、10%毎の静止画像を抽出した。
10% 毎の静止画像から骨盤の移動距離を測定した。
左立脚期の踵接地における骨盤中心の位置を0 として、歩行中の X座標上での骨盤中心の変位を骨盤移動距離とし た。
なお、左右の腸骨稜を結んだ線の中心を、骨盤中心点とした。
各静止画像の骨盤中心点の移動を、画像処理ソフト image J を用いてそれぞれ算出した。
【結果および経過】
骨盤移動距離の結果は、貼付前の15.5mm から貼付後に11.3mm へと減少した。
左立脚期の骨盤外側移動の減少とともに、ふらつきも減少した。
【考察】
足パッドにて装具軸の調整を行った結果、歩行中の骨盤移動に減少がみられた。
歩行中の前額面上の装具軸は、骨盤外側移動の増加に 大きく影響を与えると考えられた。
神経理学療法学会の抄録から分かること
この抄録から、読み取る「採択される」抄録の書き方をご紹介します。
抄録の基本は、「1つのメッセージに絞る」ことです。
伝えたい内容は書いてくとどんどん出てきます。
それを欲張ると、何が言いたいのか分からない抄録になり、「不採択」となったり、「質問がもらえない」抄録になってしまいます。
各項目それぞれで「1つのメッセージに絞る」ことを心がけてみましょう。
私が実際に削った内容も紹介します。

はじめに、目的
はじめにでは、目的を明確にしています。
この抄録では、短下肢装具が外側に傾斜した症例に対して、足パッドで内側へ傾斜させることで、歩行の変化を報告することが目的です。
短下肢装具のアライメントは脳卒中片麻痺者の歩行において重要 |
という構造になっています。
削った内容は、脳卒中治療ガイドラインのこととか、歩行速度のことです。
特に、脳卒中片麻痺歩行では、歩行速度の変化は人気のトピックです。
歩行速度を入れておくと、それだけで見てもらえる確率は上がります。
ただ、これを入れるとメッセージが伝わり辛くなってしまいます。
そのため、削りました。
方法および症例報告
はじめにの目的から、結果に必要な方法および症例報告を書くことに集中しましょう。
「全部書かなきゃいけない」
って真面目なヒトほど考えます。
私もそうでした。
ただ、全部書くと逆に読みづらく意味のない方法になります。
そのため、本抄録では、足パッドによる歩行の変化に重要な項目のみ記載しました。
・基本情報 |
リハビリ内容は一切記載していません。
ここが1つのポイントです。
私も理学療法士として、「リハビリの内容くらい書いた方が良いかな?」
と思いました。
ただ、もう一度考えます。
「リハビリの内容は、この抄録のメッセージに必要かな?」
こう考えると、必要ないです。
足パッドが歩行にどう影響するか、ってだけなので。
結果および経過
目的から、方法まで1つのメッセージできました。
ここで結果です。
抄録を見ていただければシンプルで、
・骨盤移動距離の変化 |
のみ記載しています。
ここでも、他に書きたいことがありました。
具体的には、歩行中の下腿傾斜角度も測定しており、変化がありました。
変化があった!
書きたい!
その気持ちを押し込みました。
なぜなら、歩行の骨盤変化を伝えることが本抄録の目的だったからです。
なので、削除しました。
でも、歩行中の下腿傾斜角度の測定は無駄ではありません。
短下肢装具の傾斜を変化させた結果、骨盤の移動が減少したストーリーなので、下腿の傾斜が起きていることが前提だからです。
質問で、
「骨盤移動距離が減少したのは、下腿が変化したと言えるの?」
って聞かれた時に、
「下腿軸は、◯°から◯°に変化しました。そのため、下腿傾斜が変化したことで、骨盤の移動が減少したと言えます」
って答えられますよね。
自分の研究を論理的に説明するための作業はしても、それを抄録に書く必要はないのです。
まとめ
今回は、抄録の書き方を解説しました。
これでかなり採択へ近づいたと思います。
ぜひ、参考にしてみてください。
まとめると、
採択される戦略として、
・応募する学会の昨年の抄録からそのまま参考に(真似)できそうなものを探す |
学会のルールは、
・文字数 |
です。
この5つは絶対におさえましょう。
抄録は、
・1つのメッセージで書ききる!! |
です。
発表を通して、議論して、リハビリをより良いものにしていきましょう。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
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投稿者プロフィール

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執筆監修
一般社団法人日本リハフィット協会 代表理事
国家資格(理学療法士取得)
脳卒中認定理学療法士
促通反復療法「川平法」認定施設
総合病院に10年勤務後、
埼玉県桶川市→上尾でリハビリ施設設立 5年目
2018年に日本離床学会で最優秀演題賞を受賞
臨床とビジネスの双方から挑戦を繰り返している
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〒362-0075 埼玉県上尾市柏座1-11-11
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一般社団法人日本リハフィット協会
電話番号:048-788-4608
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