【学会レポート】第23回日本神経理学療法学会学術大会@金沢 〜根拠と反証〜

こんにちは。
一般社団法人 日本リハフィット協会の實 結樹(みのる ゆうき)です。

2025年10月31日〜11月1日に開催された**第23回日本神経理学療法学会学術大会(石川県・金沢)**に参加してきました。
今回のブログでは、現地で感じたことや印象的だった発表内容について、協会としての視点も交えて振り返ります。

金沢で感じた「アクセスの良さ」と「食の魅力」

まず、金沢の会場立地が最高でした。
埼玉・大宮から新幹線で約2時間、そして金沢駅から会場までは徒歩圏内。
学会参加者にとってアクセスの良さは重要で、今後の開催地としても人気が出そうです。

そしてやはり、石川といえば海鮮。
地元出身の方に教えてもらったお店で食べたお刺身やブリは絶品でした。
臨床も研究も、まずは「しっかり食べること」ですね(笑)

テーマは「根拠と反証」

今回のクロージングシンポジウムでも取り上げられていたのが、
学会のテーマ「根拠と反証」を踏まえ、**「臨床と研究の循環」**というテーマ。

臨床現場で日々患者さんに向き合う私たち理学療法士にとって、
「学会に行く意味」や「研究をどう臨床に活かすか」は、常に考え続ける課題です。

発表を聞きながら、「クリニカルリーズニングがどこにあるのか?」と思う場面もありました。
問題点を評価して、そこに対して治療介入を行う。

これが日々の臨床の流れであることは疑う余地はありません。

そのはずなのに、「装具」や「ロボット」ありきでの介入に感じてしまう部分もありました。

装具やロボットの導入など、新しい技術が増える一方で、**“目の前の患者をどう理解するか”**という臨床の本質が見えづらくなる瞬間もあるのかもしれません。

印象に残った先生方のご講演・発表

ここからは、特に印象に残った先生方の発表をピックアップしてご紹介します。

■ 森岡 周 先生

森岡先生の発表は、現象学的アプローチを用いて一症例を深く捉える研究でした。

ここで読み飛ばさず待ってください。
何じゃそれ?って思うかもですが、内容は驚くほど臨床的。

患者さん本人の“体験”をどう理解するかという、理学療法士にとって本質的なテーマを扱っていました。

特徴的なのは、医療者の解釈を挟まず、 患者さんが「自分の身体をどう感じているのか」を丁寧に言葉にしていくという点。
しかも、それを担当療法士ではなく第三者がインタビューする。
なぜなら、担当者との関係性の中では、どうしても“答えやすい言葉”を選んでしまうから。

この話を聞いたとき、心底うなずきました。

たとえば自費リハの現場でも、
「肘が伸びない」と言われて見てみると、実際には動いている。
でも、本人は「違和感がある」「動かしている感覚がない」ことに悩んでいる。

——それなのに、つい「ほら、動いてますよ」と言ってしまう。

まさに、本人の“体験”と、私たちの“評価”のズレ。
森岡先生の発表は、このギャップにどう向き合うかを問いかける内容でした。

「現象学」というと難しく聞こえますが、 要するに“患者さんが世界をどう感じているかを理解する姿勢”のこと。
その視点を持つだけで、普段の声かけや関わり方がまったく変わると思います。

講演後、先生に質問させていただいたのですが、 とても丁寧に答えてくださり、「現象学を学ぶならフッサールから」と教えていただきました。
理論書ですが、臨床に落とし込む価値は大きいと感じます。

■ 阿部 浩明 先生・橋本 優香 先生

阿部浩明先生・橋本優香先生の研究は、 脳卒中後のバランス能力の回復パターンを丁寧に分析したものでした。

バランスが悪い=運動麻痺が強いだけ、と思われがちですが、 実際には「感覚がどれだけ働いているか」が、その後の回復を大きく左右していました。
脳画像上で感覚領域の損傷が予測される場合には、 最終的なバランス改善が難しい可能性を踏まえて介入方針を立てる必要があります。

一方で、感覚が残存している重度麻痺の方には、 麻痺の改善を積極的に目指すリハビリを行う十分な理由があるということ。

感覚入力をどう引き出し、どう統合していくか——
臨床の原点に立ち返らせてくれる、非常に実践的な研究でした。

■ 脇坂 成重 先生

脇坂先生の発表は、**重度上肢麻痺者への新しいアプローチ「Narem」**に関するものでした。

重度麻痺になると、エビデンスのある介入である
ミラーセラピーやCI療法が「動かないから使えない」という壁にぶつかります。
その“限界”を乗り越えようとしたのが、このNaremでした。

麻痺側の手に手袋型の装置を装着し、指の屈伸をサポートします。
このとき、セラピストの動きや本人の非麻痺側の動きが、そのまま麻痺側の装置に反映されます。

そう、まさしくミラーセラピーの完全版とも言える仕組みです。
この動きを繰り返すことで、上肢の使用頻度が増え、結果的にCI療法的な効果も期待できるというわけです。

「動かないからやらない」ではなく、
「動かなくても“動きを感じさせる”」。
この発想に、正直ゾクッとしました。

重度麻痺のリハビリが停滞しがちな中で、
“感覚”から動きを再起動するという視点は、まさに次の時代の上肢リハビリだと感じました。
現場でも、この考え方をどう応用できるか——今後の展開が非常に楽しみです。

詳細はこちら → Narem公式ページ

■ 針谷 遼 先生

谷先生の発表は、慢性期・重度上肢麻痺に対する3症例の報告でした。

今回の対象は、FMAで上肢スコアが一桁。
つまり、肩も肘もほとんど動かないレベルの重度麻痺です。

それでも——
臨床的に意義のある改善を示したという報告内容でした。
動画で紹介されていた実際の介入では、
「慣性力」や「視覚的錯覚」を巧みに使って、動かない腕に“動いている感覚”を与える工夫が印象的でした。

まさに、脳に“動いた”という情報をもう一度入力していくようなアプローチ。

この考え方は、私も提供している促通反復療法(川平法)などとも通じる部分が多く、
重度麻痺の方に対して「何もできない」と決めつけない姿勢の大切さに心の底から共感しました。

「重度だから無理」ではなく、 “どうしたら動きを感じてもらえるか”を探し続ける。
その実践を3症例で示された針谷先生の姿勢に、本当に胸を打たれました。

今後、論文化が進むとのことなので、詳細が出たら必ずチェックしたい内容です。

■ 鈴木 俊明 先生(ブレックファーストセミナー)

ブレックファーストセミナーでは、**「脳卒中の運動学」**についての講演が行われました。
これがもう、目から鱗でした。

テーマはシンプルですが、
「なぜぶん回し歩行になるのか」「なぜ歩行時に肘が曲がるのか」——
これらの“当たり前に見えて、誰も説明できない現象”を、運動学の視点から明快に解き明かす内容でした。

先生が話されていたある研修会での印象的なエピソード。
「手を上げたら網様体脊髄路が賦活される」
——そんなわけあるかい、と(笑)。

つまり、すべてを神経生理で片づけるのではなく、
運動連鎖・重心移動・関節モーメントなど、“身体運動の原理”を読み解くことの重要性を強調されていました。

これを聞いて、私自身もハッとしました。
つい「脳から出ていない」「神経が通っていない」と説明してしまうけど、
その前に“運動としての成り立ち”を理解していないと、本質的なリハビリはできない。

神経も大事。だけど、運動学の理解があってこそ臨床での変化が生まれる。
そんな当たり前だけど忘れがちな原点を、改めて思い出させてくれる講演でした。

そして何より、鈴木先生の説明が圧倒的にわかりやすい。
「難しいことを難しく話す」のではなく、
“その場でイメージできる言葉”で伝えてくださる。
これぞ教育者だなと感じました。

講演後、思わず先生の本を即購入(笑)。
たぶん、売り切れてたんじゃないかな?と思います。

早速、先生の『脳卒中の運動学』を読み込み、臨床に活かしたいと思います。
これは本当にオススメです。

学びと刺激、そして課題

今回の学会を通して、改めて自分の未熟さを実感しました。
「まだまだ」どころか、「全然やで」と(笑)

それでも、全国の先生方の発表や姿勢に触れることで、
自分の中に新しい視点ややる気が芽生えたのは確かです。
この刺激を忘れず、日々の臨床・教育・研究活動に還元していきます。

おわりに

日本リハフィット協会では、
今後もこのような学会参加報告や、現場で役立つ最新知見を共有していきます。
理学療法士・作業療法士・言語聴覚士など、さまざまな職種が学び合う場として、
引き続き発信を続けていきます。

最後までお読みいただき、ありがとうございました。
また次回の学会レポートでお会いしましょう。

投稿者プロフィール

實 結樹
執筆監修

一般社団法人日本リハフィット協会 代表理事
国家資格(理学療法士取得)
脳卒中認定理学療法士
促通反復療法「川平法」認定施設

総合病院に10年勤務後、
埼玉県桶川市→上尾でリハビリ施設設立 5年目

2018年に日本離床学会で最優秀演題賞を受賞

臨床とビジネスの双方から挑戦を繰り返している

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