促通反復療法「川平法」は重度片麻痺や慢性期でも適応基準を満たすのか?
※このページは、2023年7月16日に更新されました。
脳卒中片麻痺者に対する促通の一つに川平法があるけど、適応基準が知りたい!
こんなお悩みを解決します。
✓ 本記事の内容
・促通反復療法「川平法」とは ・促通反復療法の有効性 ・促通反復療法の適応基準 |
本記事を読むことで、促通反復療法「川平法」の基本的な内容や理論背景とともに、適応基準が理解できます。
読むのに10分かかりますが、促通反復療法「川平法」の適応基準を知りたい方は、最後まで読んでみてください。
※ 本記事での適応基準は、「促通反復療法を行うことで、患者にとってメリットがある(片麻痺が回復する)状況」を指します。
目次
促通反復療法「川平法」とは
促通反復療法は、この治療を生み出した「川平和美」医師の名前から、通称「川平法」と呼ばれています。
ー促通反復療法研究所ー川平先端リハラボ
※本記事では、川平法を説明する際に、国際的な論文で使用されている「促通反復療法」で統一して記載しています。
促通反復療法は、本邦でNHKの放送以降、非常に話題となったことは記憶に新しいかと思います。
↓参照↓
川平法の名前は知っていても、詳細を知らない方のために、促通反復療法を簡単に説明します。
促通反復療法とは?
促通反復療法の目的と方法は、以下に記載の通りです。
目的 | 片麻痺の回復 |
方法 | セラピストが患者の関節運動を誘導して(促通操作)、反復する。この時、患者は運動努力(意図)をすることが必要 |
促通反復療法の特徴は、「片麻痺の回復」を目指した治療法である点です。
なぜ、促通反復療法が片麻痺の回復を実現できるのでしょうか?
その理由を、次で説明します。
促通反復療法が片麻痺の回復を実現できる理由
片麻痺の回復を促進するには、4つの視点が必要とされています。
1.大脳皮質から脊髄前角細胞までの新たな神経路の形成・強化が必要。 →患者の運動努力を伴う |
2.意図した運動を実現・反復して、効率よく強化する必要がある。 →患者に試行錯誤させず、セラピストが促通操作をする |
3.できるだけ多くの強い刺激と意図した運動を反復する。 →正常な感覚入力、正常な運動との考えにとらわれない |
4.筋肥大による筋力増強を目的にした訓練と、損傷された神経路の再建と強化を目的にした運動パターン反復を区別する。 →筋力増強訓練は、ほかの神経路の興奮も伴うため、選択的な神経路の形成・強化には効果的ではない。 |
この4つの視点の背景には、脳の機能局在、運動学習、脳の可塑性など、複数の理論的背景がベースとなっています。
促通反復療法の内容と理論を踏まえると、有効性はありそうです。
実際、有効性はあるのでしょうか?
促通反復療法の有効性
ここでは、促通反復療法の治療成績を紹介します。
片麻痺上肢の治療成績
促通反復療法の片麻痺上肢に対する主な治療成績です。
(数字は引用論文です)
方法 | 結果 |
---|---|
1)通常の作業療法に促通反復療法を追加 | 通常の治療に比べて、上肢・手指ともに麻痺の改善が促進 |
2)対象:回復期患者 促通反復療法 vs 通常の治療 | 上肢、手指、下肢ともに促通反復療法群で有意に麻痺が改善 |
3)対象:脳卒中回復期 上肢Brunnstrom Stage(以下,BRS)Ⅲ以上 RCT | 麻痺の回復、麻痺側上肢による物品操作能力ともに有意に改善 |
4)対象:慢性期片麻痺者(1年以上) 共同運動分離群・以下群 | 共同運動分離群は、上肢・手指グレード、簡易上肢機能検査(STEF)ともに有意に改善。 共同運動以下群は、上肢グレードのみ有意に改善。 |
上肢片麻痺の程度が軽度〜中等度の方への有効性は数多く報告されています。
<引用論文>
1)鎌田克也, 他 : 脳卒中片麻痺上肢に対する作業療法と促通反復療法併用の効果. 作業療法 23 (1): 18-25, 2004
2)三谷俊史, 他 : 回復期脳卒中片麻痺に対する促通反復療法の効果. 総合リハ 38 (2):165-170, 2010
3)Shimodozono M, et al : Benefits of a repetitive facilitative exercise program for the upper paretic extremity after subacute stroke: A randomized controlled trial. Neurorehabil Neural Repair 27 (4): 296-305, 2013
4)野間知一, 他: 慢性期脳卒中片麻痺上肢への促通反復療法の効果. 総合リハ 36 (7): 695-699,2008
片麻痺体幹・下肢の治療成績
促通反復療法の片麻痺体幹・下肢に対する治療成績です。
方法 | 結果 |
---|---|
5)対象:脳卒中回復期 体幹の促通反復療法 vs 通常理学療法 RCT | 促通反復療法群で、体幹回旋筋力と10m歩行速度が有意に改善 |
6)対象:脳卒中回復期 下肢の促通反復療法 A−B−A−Bデザイン | 促通反復療法の期間に、片麻痺の回復は促進(有意差あり) |
体幹・下肢についても、多くの有効性が報告されています。
<引用論文>
5)廣川琢也 , 他 : 脳卒中片麻痺患者に対する体幹への促通反復療法の効果-ランダム化比較試験による検討-. 理学療法学 40 : 457-464, 2013
6)KAWAHIRA K, et al : Addition of intensive repetition of facilitation exercise to multidisciplinary rehabilitation promotes motor functional recovery of the hemiplegic lower limb. Journal of Rehabilitation Medicine 36 (3) : 159-164, 2004
なお、促通反復療法をもっと詳しく知りたい方は、川平先生の著書が出ておりますので、そちらでご確認ください。
促通反復療法の適応基準
ここまで、促通反復療法について、解説しました。
続いて、促通反復療法はどんな症例に適応なのかを解説します。
改善の可能性が非常に高い適応に加えて、臨床的に気になる、「重度の片麻痺」や「慢性期」への適応についても触れたいと思います。
促通反復療法で改善の可能性が非常に高い適応
促通反復療法で改善の可能性が非常に高い適応を、以下に紹介します。
以下に紹介する適応は、複数の先行研究での「取り込み基準」「除外基準」を参考にしています。
促通反復療法で改善の可能性が非常に高い適応は、
病態と症状 | 脳卒中による片麻痺者 |
機能レベル | BRS Ⅲ以上 |
病期 | 急性期から回復期 |
指示入力 | 簡単な指示に従うことができる |
となっております。
一方、先行研究で除外基準となっており、適応外となる項目は、以下です。
・目的とする関節の拘縮/疼痛 ・既存の上下肢障害 ・重度の失語症で指示に従えない ・重度の認知症、視空間の障害、感覚障害 ・小脳病変 |
促通反復療法は、ここで紹介した「適応」と「適応外」を知った上で、患者さんへの提供を検討してください。
実際の臨床では、上の適応以外での促通反復療法を提供したい場面が想定されます。
片麻痺の回復に難渋することが多い、「重度の片麻痺」や「慢性期」では適応になるのでしょうか?
重症者にも適応あり
促通反復療法は、重症者へも適応となります。
ただ、重度片麻痺者の場合は、電気刺激を併用して、神経筋への刺激の強度を高めながら実施します。
【対象】
発症3〜13週間の脳卒中片麻痺者
腕の麻痺を評価するFugl-meyer assessment(以下、FMA) ≦ 20
【方法】
促通反復療法+電気刺激療法 vs 促通反復療法 vs 通常治療群
開始時と4週後に腕のFMAを測定
【結果】
促通反復療法+電気刺激療法群は、通常治療群より、有意にFMAが改善した。
慢性期にも適応あり
慢性期の改善報告もあり、適応となります。
【対象】
脳卒中片麻痺者
発症から 35.7±28.9ヵ月(5~115ヵ月)
下肢BRSの中央値はⅣ
【方法】
促通反復療法+装具療法(歩行訓練)
4週間実施
【結果】
下肢のFMA、Stroke Impairment Assessment Set(SIAS)、Timed Up & Goテスト、10m歩行は介入後に有意に改善
<参考文献>
Tomioka K, Matsumoto S, Ikeda K, Uema T, Sameshima J, Sakashita Y, Kaji T, and Shimodozono M: Short-term effects of physiotherapy combining repetitive facilitation exercises and orthotic treatment in chronic post-stroke patients. Journal of Physical Therapy Science 29: 212–215, 2017.
促通反復療法の適応まとめ
以上から、重度片麻痺や慢性期脳卒中片麻痺者に対しても、促通反復療法は適応となります。
その際、促通反復療法単独ではなく、電気刺激や振動刺激(本記事では割愛)、装具療法などを組み合わせることで、有効性は更に発揮されます。
埼玉川平法研究会
埼玉県で川平法の研修会・練習会を実施しています。
興味がある方は、下記をご確認ください。
促通反復療法の研究限界
ここまでは、促通反復療法を論文を中心に効果や適応について、紹介しました。
現状、報告されている論文では、否定的な報告などはほとんどありません。
促通反復療法を研究しているのは、立案者の川平先生を中心とした研究グループや、促通反復療法を提供している医師や療法士となっています。
簡単に言うと、自分の提供している治療の否定的な報告をわざわざしないよね?ってことです。
それに加えてランダム化比較試験などの情報の信頼性が高い研究が少なく、今後研究数が増えることで有効性が変わる可能性があります。
例えば、脳卒中領域で有名な「ボバース法」には、効果を否定する信頼性の高い論文が数多くあったりします。
いずれにせよ、促通反復療法は「ボバース法」と比べても歴史が浅く、今後の研究によっては適応や有効性が変わる可能性があることを頭には入れておいて下さい。
(どんな治療や研究にも言えることですが)
また、促通反復療法は有効であっても、提供する療法士が研修を受けたかどうかでも結果が変わる可能性も考えられます。
これらの限界をおさえつつ、促通反復療法の適応について考えていただければ幸いです。
まとめ
本記事では、促通反復療法の適応基準について、解説しました。
・促通反復療法の目的は、片麻痺の回復
・患者は運動努力をしつつ、セラピストが促通操作を実施
・非常に効果的な適応は、BRS Ⅲ以上の脳卒中片麻痺
・促通反復療法は、電気刺激や装具療法と併用することで、重度片麻痺例や慢性期例にも効果あり
・有効性や適応は現時点のものであり、今後の研究動向にも注目
本記事の監修者
針谷 遼(はりがいりょう)
株式会社BRAIN代表取締役
脳卒中認定理学療法士
東京都世田谷区にて保険外リハビリサービス【エビデンスに基づく脳卒中専門リハビリBRAIN】を運営
また、理学療法士・作業療法士・言語聴覚士向けの学習塾【BRAINアカデミー】を運営
脳卒中リハビリにおけるEvidence Based Practiceの普及に努めています
▼ BRAINホームページ
https://brain-lab.net/
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投稿者プロフィール
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執筆監修
一般社団法人日本リハフィット協会 代表理事
国家資格(理学療法士取得)
脳卒中認定理学療法士
促通反復療法「川平法」認定施設
総合病院に10年勤務後、
埼玉県桶川市→上尾でリハビリ施設設立 5年目
2018年に日本離床学会で最優秀演題賞を受賞
臨床とビジネスの双方から挑戦を繰り返している
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〒362-0075 埼玉県上尾市柏座1-11-11
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一般社団法人日本リハフィット協会
電話番号:048-788-4608
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